事例紹介
株式会社オプティム
株式会社オプティムは、創業者であり代表取締役社長である菅谷俊二氏が2000年6月に佐賀大学在学中に創業した後、東証プライム市場に上場、2023年3月時点で年間売上高92.8億円にまで成長したIT企業です。現在は東京都港区に本社を、佐賀県佐賀市に本店を構えています。PCやモバイル端末向けのセキュリティサービス「Optimal Biz」を起点に、「○○×IT」という考え方に基づき、AI・IoTなどの技術をさまざまな産業領域へ融合させ、第4次産業革命型産業へ再発明することに取り組んできました。同社では非常に数多くの特許を取得されていますが、特許取得のメリットや特許取得での苦労について、同社の社長室知的財産ユニット 村井氏にお話を伺いました。
「世界の人々に大きくいい影響を与えたい」
あらゆる産業のDXを実現し、第4次産業革命の中心的企業になる
ーー御社はさまざまな分野でのDX化に資するプロダクトをリリースされていますが、御社ならではのプロダクトについて教えてください。
大きく分けて3つあります。1つ目は、Mobile Security事業の中核であるMDM(Mobile Device Management)サービスの「Optimal Biz」です。これはオフィス用のスマートフォンやタブレット端末のセキュリティサービス製品で、スマートフォンが出始めた頃に、社長の菅谷が「これからはスマートフォンの時代が来る」と確信してリリースしたものです。その読みが当たり、13年連続業界別20部門でシェアNo.1を獲得しており、現在では18万社の企業に使っていただいています。
2つ目は、農業分野におけるドローン適期防除サービス「ピンポイントタイム散布」です。収穫時期や作物を植えた時期を考慮して最適なタイミングにピンポイントで農薬を散布できるので、農薬等の使用頻度・使用量を抑えながら防除効果を高め、高品質かつ低コストなスマート農業を実現するものです。こちらのサービスで活用している特許(特許第6326009号)は2019年度に「九州地方発明表彰」の文部科学大臣賞を受賞しました。
3つ目は、三次元測量アプリ「OPTiM Geo Scan」です。従来、三次元測量には数百万円以上する機器を使うのが一般的でした。一方、こちらのプロダクトではLiDAR対応のiOS端末と、高精度のGPS信号を受信できる円盤形のレシーバーだけで短時間で高精度な三次元測量が可能となります。かかる費用も約25万円 と低コストで、主に中小企業の建設現場中心に普及しています。
ーーそうした技術力の高さを誇るプロダクトを生み出している御社の特徴や強みを教えてください。
当社は創業以来、「自分たちが作り出した新しい技術やサービスで、世界の人々に大きくいい影響を与えたい」との理念をもとに、あらゆる産業のDXを実現し、第4次産業革命の中心的企業となることを目指してきました。そのために、AI・IoT・Cloud・Mobile・Security・Robotics・UXなど多くの技術に支えられながら、常に理想のサービスを実現すべく必要な技術の研究開発を日々行っています。
当社の強みは、技術開発を行うだけでなく、それを持続的なビジネスモデルとして確立し、企画化・サービス化していることです。これまでさまざまな失敗を積み重ねながらも、ITの先端技術を社会実装するために自分たちの編み出したものをどのようにサービス化していくか、どのようなビジネスモデルで動かすべきか、というところまで突き詰めて考え、事業化して展開しています。
特許取得のメリット
PR効果が絶大。リーディングカンパニーとの提携・協業も実現
ーー御社は重要技術等について548の特許を取得されています(※)。このように特許を多数取得しているメリットは何でしょうか。
PR効果は非常に大きいですね。重要技術等について特許を取得できたときには毎回プレスリリースを打っており、「技術力のある会社」「知財活動に熱心な会社」というブランディングができています。そのおかげで、「IT×○○」と銘打ってさまざまな分野のリーディングカンパニーと提携や協業ができるようになりました。また、プロダクトに関連する特許資料を作成して営業先で紹介してもらったところ、それをきっかけにお客さまに特許の内容に興味を持っていただき、問い合わせにつながった例もありました。
ーー特許を取っておいて良かったエピソードはありますか?
恐縮ながら、特定の事例を挙げることは難しいですが、他社との協業時、当社が複数のAI・IoT関連特許を登録していたため、相手方の知財面での懸念を低減させることができました。
ーー御社はとても積極的に特許を取得されているように見えますが、創業当初から特許出願には前向きだったのでしょうか。
はい、知財戦略を重要な企業戦略の1つとして位置付けていました。創業当初から売り上げを伸ばし、ステップアップするために他社との協業を模索しておりましたが、その際に、双方が安心してアイデアを出し合えるよう、当社はアイデアを特許出願・登録という形で予め権利を主張しておりました。
ーー菅谷社長のアイデアを特許にする際は、どのように特許出願の準備を進められているのでしょうか。
関係部署で協力し合いながら進めています。R&D部門ではソフトウェアでの実現可能性を検討しますし、知財ユニットでは菅谷のアイデアから新規性があるかどうか、特許化できるかどうかを検討します。そのように、さまざまなことを同時並行で進めていますね。当然ながらスピード感も求められるのですが、顧問弁理士さんも忙しい方なので「これは何年何月頃に世の中に公開する予定か」を菅谷に確認して、そこから逆算してスケジュールを組み立てています。
ーー特許取得に関して、苦労されている点はありますか。
少々抽象的なお話になってしまいますが、特許庁の意向と当社の意向のギャップをどう埋めるかがいつも苦労します。当社としてはなるべく抽象的な上位概念で特許を取りたいのですが、特許庁側には「もう少し具体化してほしい」という考え方があるようです。当社にも譲れない点はありますので、特許庁の意向をある程度は受け入れつつも、当社の主張を守るために折り合いをどうつけていくかは、毎回顧問弁理士と頭を悩ませるところですね。
ーーお話を伺っていると御社は事業部門と知財部門が非常に近しい関係にある印象です。
そうですね。当社の知財ユニットは「社長室」という社長直下の組織に位置づけられていて、月1回は社長や経営陣と直接特許について打ち合わせできる場を設けてもらっています。そこで「今こういう事業をやりたいからこういう特許を出したい」と相談されるので、顧問弁理士の先生と一緒に検討しています。
(全体ミーティングを行う会議室から)
ーー御社は海外でも特許を取得されていますよね。
はい。アメリカで117、中国で27、欧州で12の特許を取得しています(※)。特に、アメリカと中国は外せないですね。アメリカは当社が力を入れているAIやIoTの本場ですし、市場も大きい。中国は、近年経済安全保障の問題もあり少しお付き合いが難しくなっていますが、経済成長がめざましく市場の大きさも目を見張るものがあります。なので、この2カ国での特許出願はやはり避けて通れないと考えています。
弁理士に期待することは
事業戦略を含めて長期的な視野を持ってサポートしてもらいたい
ーー今後、弁理士に期待されること、要望されることはありますか。
「事業的に価値があるので特許出願したい」とこちらから要望したときに、たとえば類似する特許や競合を調査してくれるとありがたいですね。また、特許明細書を書くときにも、できるだけアイデアを盛り込んでおいて、分割出願のときに分割しやすいようにしておくといった、技術的なところの指導をしていただけると助かります。また、以前日本弁理士関東会の主催で、企業の知財担当者向けの勉強会にも参加したのですが、業界・業種の垣根なく広く呼んでいただけたのがありがたかったですし、大変勉強にもなりました。
ーーそういった勉強会もお役に立てるのですね。先ほど顧問弁理士さんがいるとお聞きしましたが、どのようなお付き合いをされているのですか?
今当社でお付き合いしている顧問弁理士さんは、「こういう特許のアイデアがある」と話をもちかけたときに、「そもそも、これを使ってどのようなビジネスをしようとしているのですか?」「もし仮に特許にできたとしたら、これが御社の事業にどのように役立ちますか?」と聞いてくださいます。
弁理士さんは、クライアントの事業の役に立つかどうかにかかわらず、単に特許出願を数多くこなして利益を上げることもできるはずです。しかし、当社の顧問弁理士さんはそういった考え方を持たず、事業戦略まで踏み込んで深掘りしたヒアリングをしてくれてアドバイスをいただけるのです。こういった弁護士さんは本当に長期的な視野を持ってお付き合いしてもらえていると感じられて非常に好感が持てますし、信頼もできます。他の弁理士さんも、そうであってほしいですね。
非常に貴重なご意見をいただけて、背筋が伸びる思いです。
われわれ日本弁理士関東会も、長期的な視野を持ってお客さまの事業戦略まで踏み込んだお付き合いを心がけていかなければならないと改めて思いました。
お忙しい中取材にご対応いただき、ありがとうございました。
(オンラインミーティングの様子)