事例紹介
株式会社壮関
茎わかめやカリカリ梅、干し芋、れんこんチップなど、海と大地の素材を活かした「素材菓子」のトップシェアメーカーである株式会社壮関。
同社の主力商品の『茎わかめ』は、わかめの芯にあたる部位のことで、栄養満点にも関わらず、加工の難しさから未利用資源として廃棄されていたものを、同社が研究を重ねることで商品化に成功したものです。これを一例にいくつものトップシェア商品を持ち、素材菓子のパイオニア的存在として確固たる地位を築いています。
そんな同社は、素材菓子のトップメーカーとして海外事業にも大きく力を入れており、海外展開を有利かつ戦略的に進めるための商標登録、および登録商標を活用した現地マーケット開拓を重要な戦略と位置付けています。
今回は、そんな壮関の海外展開をリードする、事業本部 品質保証部 部長で、子会社の壮関食品(北京)有限公司の総支配人を兼任する勝又努氏、総務部 総務課 課長の福田朋広氏、内部監査室 室長の平井隆文氏に、知財活用による現地マーケット開拓と、海外事業の展望などについてお話を伺いました。
海と大地の恵みを、世界へ
素材本来の味にこだわり抜いた「素材菓子」のパイオニア
ーーまずは貴社の事業内容についてお聞かせください。
当社は、日本国内のコンビニエンスストアやスーパーマーケットを中心に、『茎わかめ』や『カリカリ梅』といった素材そのものの美味しさを活かした「素材菓子」と呼ばれる商品の製造・販売を行う食品メーカーです。
「素材菓子」とは、素材本来の風味や味わいを重視したお菓子のカテゴリーで、健康志向の高い方を中心に、日常的なおやつや、お酒のおつまみなどとしてご愛顧いただいています。
主軸商品である『茎わかめ』は、国内製造・加工シェアにおいて63%(※1)、もう一つの主軸である『カリカリ梅』は、国内売上シェアにおいて21.7%(※2)となっており、いずれも国内トップシェアとなるなど、素材菓子市場において確かな地位を築いています。
ーー『茎わかめ』とは、どのような食べ物なのですか?
『茎わかめ』とは、わかめの”芯”にあたる「中芯」という部分をカットの上、加工した商品です。従来、この「中芯」は未利用部位として廃棄されていましたが、一部の漁師さんの間で好んで食べられていることに目を付けた当社は、研究開発を重ねて1996年に初めて茎わかめを素材菓子として販売しました。そして今日では、『茎わかめ』は製造・加工シェアNo.1の商品へと成長。日本全国はもちろん、海外の人々にも愛される素材菓子の代名詞となりました。
『茎わかめ』以外にも、『カリカリ梅』『干し芋』『れんこんチップ』をはじめ、海と大地の素材を活かしたさまざまな素材菓子を製造・販売しています。これらの商品は、健康志向が高まる現代において、自然の美味しさを大切にしたお菓子として、多くの人々に支持されています。
ーー今日ではおなじみとなった、「素材菓子」というジャンルの先駆的な存在なのですね。
そうであると自負しております。
そして新たな取り組みとして、素材菓子の海外展開にも力を入れています。特に近年は、台湾や香港への輸出実績が堅調であることから、これをベースにさらなる拡大を図るべく、全社横断の「海外事業プロジェクト」を発足させました。
このプロジェクトは、営業、開発、製造など、各部門のキーマンが集まり、海外事業拡大に向けた戦略を検討・実施することをミッションとしています。2023年11月には、中国市場で事業を行うための現地法人「壮関食品(北京)有限公司」を設立し、現地生産体制の構築を進めています。
台湾、香港は日本からの輸出をメインに、中国は現地生産による商品展開という、2つの軸で海外事業を展開しています。
なぜ、中国のみ現地生産のかたちをとっているのかといえば、福島原発事故および処理水の海洋放出の影響で、弊社の位置する栃木県で製造された製品(農産物、水産物の加工品)は輸出規制の対象となっていることが背景にあります。
それによって主力製品の輸出が困難な状況に陥ったのですが、当社では、以前から使用している原料の約7割が中国産であり、特に梅はすべて中国から調達しているため、既に中国との原料供給ルートは確立されていました。この関係を活かし、取引先への技術供与および共同開発を行い、中国国内で壮関ブランドの商品を製造・販売する計画を立てました。
現地法人を設立した後は、当社の代名詞である『茎わかめ』の現地生産・販売を行うべく、委託先との契約や現地の食文化・嗜好調査とそれに基づいたレシピ開発などを行っています。
商標登録が鍵!
海外市場で勝つための必須条件とは
ーー貴社では、そうした本格的な海外事業戦略の一環として、知的財産権の取得に力を入れているとお聞きしましたが、具体的には、どのような取り組みを行っているのですか?
実は、ビジネス規模がまだ小さかった10年ほど前から、将来的な中国市場への進出を見据えて、中国および香港で商標登録を行っていました。理由は、日本とは異なる中国独特の商習慣や法制度にあります。中国では、小売店に商品を卸す際、ロゴが商標登録されていることが契約の前提条件となるため、ビジネスを展開するには製品名や企業ロゴの商標権を取得する必要があるのです。
さらに2023年、当社の中長期経営計画である「壮関ビジョン2030」の策定に合わせて、CI(コーポレート・アイデンティティ)の刷新とともに、ロゴも「Sokan®」という旧コーポレートロゴから、書体やデザインの変更を含めて「素材で、にっこり。Sōkan®」という新しいコーポレートロゴへと刷新しました。中国で販売予定の商品にこの新しいコーポレートロゴを使用するために、現地法人の顧問弁護士を通じて商標登録手続を進めているところです。
ーー中国でビジネスを展開するための前提として、商標登録が必要なのですね。
そうですね。厳密に言えば、法的にはロゴの商標登録は必須ではありませんが、現地の卸業者との契約条件の中に、必ずと言っていいほどロゴの商標登録を求められるため、当社では、中国で事業展開する上で商標登録は重要なステップだと位置付けています。もちろん、商標登録をしておくことで、ロゴやブランド名などの不正使用を防ぎ、知的財産を守るという意味合いも含んでいます。
また、中国では商品を販売する際、外国語のコピー文言にはすべて中国語の訳文を付けなければならないという決まりがあります。そのため、現地の顧問弁護士と相談の上、対応策の一つとして、中国で事業展開を行う際には、新しいコーポレートロゴから「素材で、にっこり。」という文言を省き、「Sōkan®」だけのロゴで商品展開を図ることを検討しています。日本語のロゴをそのまま使うことができないので、いろいろと苦労があります。
将来的な話になりますが、当社には「素材で、にっこり。Sōkan®」というコーポレートロゴだけでなく、「壮関\そうかん®」という国内用の企業ロゴもあり、これを中国の簡体字に対応させることも視野に入れながら、事業拡大を図っていくつもりです。
ーー香港や台湾は、そうした制約はないのですか?
香港や台湾に関しては、卸業者との契約上ロゴの商標登録を求められることはないため、日本の製品をそのまま輸出し、現地の法律に合わせた表示を袋の裏に貼付して卸しています。
香港は中国の一部ですが、特別行政区として高度な自治が認められており、それに基づいて中国本土とは異なる法制度や貿易政策が実施されています。そのため、香港向けの対応は中国本土とは異なり、台湾と同様に比較的自由度の高い商品展開が行えるのです。
ーー日本国内での知財活動はどのように進めていますか?
弁理士の先生方の力をお借りして、社名である「Sokan®」や「壮関\そうかん®」、「素材で、にっこり。®」、「こつまみ®」をはじめとした呼称やネーミングに関する商標登録を行っています。これにより、自社のブランドの法的保護および他社との差別化を図り、お客様に安心して当社の商品をお選びいただける環境を整えています。
健康志向で市場拡大を目指す
素材菓子文化を世界に広める壮関のチャレンジ
ーー商標を活用したマーケティングやプロモーションなどは考えていますか?
これからの事業展開次第ですね。中国本土では、SNSでインフルエンサーを起用した通信販売が行われていますが、事業拡大や現地マーケットの反応を見ながら、将来的にはそういったマーケティングも検討してみたいと考えています。
香港、台湾、中国本土のいずれにおいても、当社がゼロから市場を開拓し、『茎わかめ』をはじめとする日本の素材菓子文化を広めてきたという自負があります。これらの国々や地域では、都市部を中心に健康への関心が高い方が多く、また、日本と同じ東アジア圏であるため、食べ物の嗜好や価値観にも共通する部分があります。よって、壮関の健康志向の素材菓子は、努力次第でマーケットをさらに拡大できると考えています。実際に、現地の卸さんとの商談でも好感触を得ており、今後の展開に大きな可能性を感じています。
そうした市場の創出および拡大を図る上で、商標登録は非常に重要な役割を果たすと考えています。先に述べた通り、中国では小売店に商品を卸す際に、ロゴが商標登録されていることが契約の必須条件となるケースが多くあります。商標登録があれば、こうした商談をスムーズに進めるだけでなく、現地パートナーと連携して営業活動を行う際にも、大きな武器となるでしょう。
さらに、商標登録は模倣品対策にも効果を発揮してくれると考えています。中国市場は魅力的である一方、知的財産の保護が重要な課題となっています。商標が登録されていれば、模倣品の流通を防ぎ、壮関の商品を安心して現地の人々にお届けすることができます。そして、現地での商標権の存在は、ブランド価値を守るための法的な基盤となり、長期的な事業の安定性を支える要素となるでしょう。このように、当社では、商標登録は単なる手続にとどまらず、事業戦略の一環として大きな意義を持つと考えています。
ーー中華圏以外の地域、例えば欧米やアジア諸国への事業展開なども検討しているのでしょうか?
実は、台湾や香港、中国ほどではありませんが、以前からタイやシンガポールにも当社の製品を卸しており、東南アジア市場開拓の一環として、2024年10月にはシンガポールの食品関連の見本市に出展する予定です。シンガポールも中華系の方が多く、台湾や香港での販売実績を鑑みても、同国は日本の食品が受け入れられやすい土壌があると感じています。
これに加え、先日、外資系の大手スーパーマーケットチェーン様からお話をいただき、当社の素材菓子をPB商品として導入していただける話も進んでいます。そのスーパーマーケットチェーンでは、以前から当社の『茎わかめ』を中心とした素材菓子を販売していただいており、相応の実績と信頼関係を築いてきたことで、今回、そのお客様が展開する米国および台湾の店舗でも当社の商品を扱っていただく方向になりつつあります。世界最大級のスーパーマーケットチェーンなので、そこで本格的に当社の商品を取り扱っていただくことは、壮関にとって非常に大きな飛躍となります。特に、米国市場での展開は、今後のグローバルな成長に向けた重要なステップであり、これをきっかけに、さらに多くの海外市場への進出を目指していきたいと考えています。
ーー貴社は国内外で商標登録を行っており、特に国内では弁理士に相談して、社名や商品名に関する商標登録をいくつもされていると伺っています。弁理士に相談してのご感想はいかがでしょうか?
商標登録を検討するにあたり、顧問契約を結んでいる弁理士の先生からアドバイスやサポートをいただいています。弁理士の先生には、専門的な内容や複雑な手続についてご相談しています。
こうした心強いサポートを最大限に活用しつつ、国内および海外事業を含めた知的財産の保護にも力を入れていきたいと考えています。特に、海外市場での商標や特許の権利取得は、今後のビジネス展開において重要な役割を果たします。これからも、弁理士の先生のご協力を得ながら、自社の知的財産を守り、さらなる成長と発展を目指していきます。