事例紹介
株式会社スクウェア・エニックス
2003年株式会社スクウェアと株式会社エニックスが合併して誕生した株式会社スクウェア・エニックス(現商号:株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス)より、2008年同社の事業を承継する会社として新設分割により誕生。ゲームソフトの開発や販売、コミック雑誌や単行本等の出版の他、アミューズメント施設の運営を行っている。また、当該グループ及のIP(知的財産)のコンテンツを中心に、二次的著作物の企画、制作、販売におけるライセンス管理するライツプロパティ事業も推進中。ゲーム音楽関連商品や映像作品で制作した成果物の特許取得において、戦略的なプロデュースにより多くのヒットを生み出している当該社では、事業の躍進を支えるどのような知財戦略を行っているのかを伺いました。
独自目線で業界トップリーダーへ
ゲームの面白さの差別化を図る
ーー御社は、多くのゲームを開発されていますが、新しいゲームを開発したときに、どの部分について権利化を図っていき、どの部分については特許取得をせずにオープンにしていく等の判断基準のようなものはございますか。
新しいゲームが開発されるときには、これまでにない新しい仕組み、技術を取り入れることがありますから、いろいろと権利化できる要素がございます。その中でも、他社ゲームと差別化できる要素を中心に権利化を進めています。例えば、これまでになかった面白さを得られる技術については、他社ゲームと差別化できる要素となり得るので、権利化をすべきかどうか、権利化できそうかどうかを知財部門で検討しています。一方、権利化をせず特許取得をしない判断はありますが、これは戦略的なオープン化を進めるといった積極的な意味あいをもつものではありません。
ーー他社ゲームとの差別化できる要素について特許を取得していくのですね。
そうですね。ユーザが魅力を感じて、面白いと思う技術により、他社ゲームとの差別化ができるわけですが、発明発掘を行う時点、つまりゲームがまだ未完成の開発段階において、ほんとうに差別化につながる要素になるのかどうかを予測しなければならず、その見極めが非常に難しいです。難易度の高い作業ですが、予想が的中して差別化につながる要素を権利化できればビジネスを大きく有利に進めることも可能なので、非常にやりがいのある仕事だと考えています。
ーー年間ではどれくらいゲームの新作が出ているのでしょうか。また、1本のゲームを制作するにあたって、何人くらいの技術開発者がかかわるのでしょうか。
新作ゲームの数は、年によって異なりますが、ここ数年の実績から判断しますと1年間に30本以上の新作ゲームが発売されております。ゲーム開発の仕方はいろいろあるのですが、主に、内部で制作する内部制作と、社外の協力会社に制作を委託する場合などがあります。開発に関わる技術者の数は、開発の段階によって増減がありますが、多いときには数百人近くがかかわることもあります。
ーー知財部門は、ゲームが世の中に出るまでの間に、技術開発者とのヒアリング、先行技術調査、クリアランス調査等が必要になると思いますが、工夫されていることはございますか。
ゲームの内容にもよりますが、ゲーム開発には長ければ数年がかかります。ですから、知財担当者は、技術開発者と密に連絡をとってサポートしてくようにしています。ただ、日常的に特許のヒアリングなどを行っているわけではなく、例えば、プロジェクトで決められたマイルストーン(中間目標)毎に試作版のゲームを見せてもらったり、ヒアリングを行なうようにしています。
ーーゲーム分野で差別化できる要素について権利化を図るとのことですが、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
例えば、「ドラゴンクエストウォーク」(登録商標)というスマホゲームがあります。それまでGPSの位置情報を利用して地図上を歩いて戦ったりするスマホゲームはいくつか出ていますよね。「ドラゴンクエストウォーク」は、大まかな技術はそれまでのスマホゲームと同じですが、新しい要素をしっかり加えている点が重要なのです。そういう新しく面白い要素は他の同種のゲームとの差別化ができるので、そのような要素に着目して権利化を図っていくようにしています。
知的財産活動の軌跡
生かせる特許権や商標登録の価値を見極める
ーー貴社ではATB(アクティブタイムバトル)の特許取得が有名ですね。これはどのようなものか、教えていただけますか。
当時主流だったターン性の戦闘システムとは違い、これはリアルタイムに時間が流れになっています。視覚的に行動選択までの可能時間を捉えることによって、ゲームスピードの調整ができると共に、時間の調整・切り替えもできるのです。
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ーーこちらは、有名なゲームソフト『ファイナルファンタジーⅣ』がきっかけとなり、以降のシリーズや他作品でも使用されていますね。
特許を取得したのは20年ほど前の出来事です。1990年代はソフトウェアに関するプログラムで特許を取得するのは難しい時代だったと思います。今でこそ、ゲーム業界ではソフトウェアの特許をとりやすくなっていますが、ATBはプログラムクレームの先駆けとなりました。
ーーATBは、知財部門と技術開発者が一丸となって特許取得に挑んでいったのだろうとお察しいたします。特許取得できたときには、御社の雰囲気は盛り上がったのではないでしょうか。また、特許法第30条の適用を受けて、特許になったようですが、発明に関する情報管理についてはどのようにされているのでしょうか。
残念ながら、当時私は弊社に所属していなかったため、リアルでの喜びを感じる機会はなかったのですが、かなり担当者間では喜んだのではないでしょうか。また、30条の適用についても、当時はプロジェクトが広報を兼ねていたこともあり、公表した情報をそれほど管理できていなかったと聞き及んでいます。知財の取り扱いについて社内への周知を地道に行ったことで、現在は管理できるようになり、組織として改善できていることを感じます。
ーー想像するだけでも興奮する光景ですね。
特許同様に、御社は商標権も多くお持ちですね。
ブランドを継続して使用することが商標価値を高めるとよく言われますが、ゲーム業界においてもそのようなことが言えると思います。例えば、過去のゲームをリメイクして商品化する場合があります。リメイクの商品は、過去のゲームの面白さに加えて、新しい価値もユーザの皆様に提供することもでき、さらに楽しんでいただけるものになります。そういうことを考えると、過去のゲームに関する商標権を維持し続ける必要性は、今まで以上に上がっていると思います。知財部門としては、商標権のビジネス的な価値を感じるところが多いです。
弁理士に期待することは
企業知財部門から見た外部弁理士への期待
ーー企業知財部門から見て、弁理士や弁理士会に対して、何か期待することなどはございますか。
知財部門にとって、弁理士との関わりとなりますと、弊所内の社内弁理士と、外部の事務所弁理士とがあるかと思いますが、社内弁理士も事務所弁理士も、権利化のスキルが高く、製品を深く研究してくれているので助かっています。現状に満足していますが、専門的な部分をより深めていただければよいと思います。
最近感じたことは、弁理士でないと、最新の情報にたどり着くことが難しい場合もあり、そのような情報を提供してもらえるとありがたいです。例えば、特許庁提出書類の押印省略や、アメリカも提出書類が電子署名で対応できるようになった点など、制度運用の変更点や事例等を弁理士会の研修で取り上げていただいて、社内の情報がアップデートできるとよいです。
ーー企業弁理士から見て、事務所弁理士に対して、何か期待することなどはございますか。
アドバイスを求めたときに形式的なものだけではなく、実際はこうですよというような部分まで踏み込んだ回答が欲しいですね。踏み込んだ回答には勇気がいるかと思いますが、社内弁理士から見ると、形式的な部分は分かりますが、その奥にある部分について事務所弁理士の視点からのアドバイスをいただけるとありがたいです。知識と経験が裏打ちされた事務所弁理士ならではの実務的な見解があると嬉しいですね。
ーー御社にとって、知財部門というのはどのような存在ですか。
知財部門は、法務・知的財産部に属しているのですが、あくまでも裏方の、開発部門を裏から支える意識があるので、法律でこうなっているからこうして、と頭ごなしに指示するのではなく、開発のやりたいことをいかに実現していくかということを意識しています。
また知財ありきではなく、ビジネスがありきでその上で何ができるかという視点を常に持つようにしています。特許調査や商標調査には管理的なイメージが先行してしまいますが、会社のビジネスに対して我々がいかに貢献していくかということが大事だと思います。