第3回
こんな使い方も!スタートアップにもできる、特許出願のメリットを引き出す方法

2017.12.1

特許出願は、審査を経て特許権が成立して初めて、他社による実施を排除できるようになります。それでは、権利成立前の出願段階では何のメリットも得られないかと言えば、そうではありません。そして、少し工夫をすることで、そのメリットを効率的に引き出すことができます。

特許出願のメリット

特許出願をすると、原則として出願から1年半後に出願の内容が公開されます。出願が公開されると、

(1) 他社が同一の発明又は似たような発明についてその後に出願をしても特許を取得することができなくなり、
(2) その発明を必要とする事業への他社の参入を躊躇させる

というメリットが得られます。

(1)については、特許審査の基準の一つに出願時において世界で新しいか否かというものがあり、自社出願が公開されることによって他社出願のハードルが上がるからであり、(2)については、特許出願中の状態は、権利が成立していない不確実な状態であると同時に、特許出願に記載された発明が明らかに審査を通過しないと言い切れない限り、他社からみると権利として成立してしまう可能性のある状態だからです。他社は、権利が成立してその範囲が確定した後は、そのすぐ隣で事業を行うことができますが、権利範囲が変動する出願中の状態ではリスクの評価が難しくなります。


公開後ではなく、公開前に他社が似たような発明について出願した際にはどうなるのかという疑問が湧いた方もいらっしゃるとおもいますが、ここでは話をシンプルにするため、この状況については割愛しますね。

メリットを効率的に引き出すためには?

特許出願は出願から1年半で公開されると述べました。急速な成長を目指すスタートアップにとって、せっかく取り組んだ特許のメリットが1年半も経たないと得られないのでは少し物足りないかもしれません。特許制度上、原則としてはそうなのですが、たとえば、特許庁に早期公開の請求することで出願から5月程度に公開時期を大きく早めることができます。これであれば、スタートアップの成長の速度とも合っているのではないでしょうか。

この早期公開にはデメリットもあります。たとえば、特許出願の3月後のプロダクトローンチを予定していたところ、半年後にずれてしまい、ローンチ前に特許出願が公開されてしまう状況が考えられます。ローンチが半年後、1年後に遅れてしまったとすると、先行者優位を確立したいのに、自社プロダクトについての情報を不適切な時期に他社に提供してしまうことになります。

早期公開のほかに、スタートアップにとって使い勝手のよい方法が実はあります。それは、プレスリリースです。プレスリリースは、各社が自らのタイミングで出すことができ、その内容についてもコントロールすることができます。例えば、プロダクトのローンチと共に出すプレスリリースに数行、特許出願の内容について言及してもよいですし、特許出願中とのみ記載して内容には言及しないこともできます。また、プロダクトのプレスリリースとは別にもう1つ、特許出願についてのプレスリリースを同時期に出すこともできます。

たとえば、特許出願の中にローンチ時に既に実装している機能と今後開発予定の機能について記載されている場合、既に実装している機能に関連する内容についてのみプレスリリースで言及すれば、上述した(1)及び(2)のメリットを早期に享受しつつ、まだ他社に提供したくない情報は秘匿して出願公開・早期公開のデメリットを回避することができます。

一口に特許出願といっても、このようにそこに記載された内容をどのように取り扱うかによって、得られるメリットが異なります。弁理士は、特許出願を事業に活かしていただくための適切な方法をスタートアップの皆様と一緒に考えます。