第5回
『Apple Watch』から学ぶ、
スタートアップも知っておくべき商標の基本
2018.4.2
このサービスを多くの人に使ってもらいたい、そのような想いの込められたサービス名も多いかと思います。そうした大切な名前を安心して使い続けるためには、商標登録をしておくことが必要です。
ここで、商標登録とは、サービス名といった文字、ロゴ等(「文字等」)を特許庁に登録して商標権を発生させることをいいます。商標権は、他人が類似の商標を使うのを排除することができる強力な権利で、知的財産権の一種です。
ところで「スタートアップのビジネスはとにかく早くローンチさせることが大切。知的財産関係やなにやらは走りながら整えていけばよいのでは?」という声も聞こえてきそうです。でも、せっかく認知度を獲得しても、後で法律上使用できないことがわかったら大変ですよね。そのような制限には会社法や景表法、不正競争防止法、医薬分野であれば薬機法上の制限があり得ます。そして、それらに違反していなくとも、あなたのサービス名に類似する先に登録された商標が存在する場合、使用が差止められたり、損害賠償を請求されたりするリスクがあるのです。商標登録は早い段階で検討したいですね。
スピードは大切ですが、「じゃあとにかく早く出願だ。」と拙速になってはいけません。少し検討が必要です。
誤解されている方もいらっしゃるのですが、商標登録とは、登録された文字等そのものに排他的な権利が生じるわけではありません。商標登録をしようとする者は、事業上商標を使用する「商品」又は「役務」(商標法上「サービス」のことを「役務」と呼びます。)の範囲を指定する必要があるのです。また、それら指定商品・役務を記載する際には、あわせて商品・役務を一定の基準によってカテゴリー分けした「区分」も記載する必要があります。
例えば、アップル インコーポレイテッド(以下「アップル」)の商標登録第1737946号は、指定商品を「電子計算機,電子計算機用プログラムを記録した磁気テープ」(第9類)としています。なお、登録日は1984年12月20日です。
つまり、アップルの上記商標は、PCやそのためのプログラムをカバーしているものの、例えば自動車に権利が及ぶものではありません。
では、より最近の例として、同じアップルの「Apple Watch」(商標登録第5819569号)の指定商品はどのようになっているとおもわれますか?
―「腕時計」(第14類)
と答えた方、正解でもあり不正解でもあります。それらも指定商品として指定されているのですが、
―「コンピュータ,コンピュータ周辺機器」(第9類)
という指定もされています。これは、スマートウォッチとして従来の時計を超えた機能を持つことを反映しています。さらに、
―「医療用機械器具専用のセンサー・モニター及びディスプレイ,医療用機械器具」(第10類)
という用途も指定されています。これはApple Watchが「心拍数アプリケーション」により安静時、歩行時、ワークアウト後の回復時の心拍数を計測する機能を有しているからに他なりません。
つまり、商標登録は、そのブランド名で提供する商品又は役務の機能・特性・ビジネス展開等を考えて指定すべき商品役務を定めないと不十分な権利になりかねません。
他にも考えるべき事項は多いです。例えば、その指定商品・役務いかんによっては商標登録ができない場合もあります。一例として、「Apple」を「電子機器」に使用することは問題ありませんが「りんご」に使用することはできません。このような使用は、消費者は誰の商品か識別することができず、商標法上の保護対象外となります。また、りんごのように甘い品種改良した新しい「トマト」に使用することもできません。消費者がトマトとりんごを誤認して購入してしまうおそれが生じるからです。
弁理士は、商標法の正しい理解に基づき、スタートアップの皆様の事業を理解した上で、最適で十分な範囲の商標権取得をお手伝いします。