第10回
スタートアップにオススメする
早め早めのFTO(Freedom to operate)調査

2019.12.24

1.スタートアップと
FTO(Freedom to operate)調査

「開発中のプロダクトは他社の特許を侵害しないだろうか」
スタートアップの経営者やエンジニアであれば、プロダクトを開発している最中にこんな不安にかられることはないでしょうか。
テクノロジーを利用して何らかの事業を実施する場合、第三者の特許を侵害することは許されません。とはいえ自社のプロダクトが第三者の特許を侵害しているか否かをどのようにして調査すればよいのでしょうか。あるプロダクトが特許を侵害しているか否かの調査は、FTO(Freedom to operate)調査と呼ばれています。FTO調査は、クリアランス調査や侵害予防調査と呼ばれることもあります。

2.なぜFTO調査を実施しなければならないのか

FTO調査を怠った場合、スタートアップにどのようなことが起こり得るのでしょうか。例えば、FTO調査を怠りプロダクトをローンチしてしまった場合、そのプロダクトが第三者の特許を侵害していたとすると、その第三者から差止請求権を行使され、スタートアップの事業がストップしてしまうおそれもあります。更に、スタートアップの事業により特許権者が損害を被ったとして損害賠償を請求されることもあり得ます。差止請求や損害賠償請求を実際に受けていなくても、これらの請求を受けるリスクを抱えることは、後に実施される知財デューデリジェンスにおいてレピュテーションリスクとなり得るため、企業価値の毀損にも繋がります。
また、スタートアップのテクノロジーを大企業が採用する場合、大企業とスタートアップとの間の契約(例えば、共同開発契約)で、「スタートアップが第三者の知的財産権を侵害していないことを保証する義務」が課されることがあります。このような義務を前提として考えると、FTO調査を実施しておき大企業に対して説明できる状況を作ることで、大企業との協業も円滑に進められる可能性が高くなります。
このため、テクノロジーを利用した事業を行うスタートアップにとってFTO調査は必須です。

3.FTO調査の実施方法

それでは、スタートアップはいつどのようにFTO調査を行ったらよいのでしょうか。

(1)FTO調査はどのように実施すべきか

FTO調査のフロー

FTO調査は複数の特許公報を読み込む必要があるため、知財の専門家である弁理士に依頼するのが一般的です。しかし、弁理士にFTO調査を依頼するにしても、何をどのように調査するのかを具体的に示さなければなりません。これに関しては悩ましい点があります。
実際には、1つのプロダクトには複数の技術が実装されるはずです。それら全ての技術に対し詳細なFTO調査を実施するとなると、時間的コスト、金銭的コストがスタートアップにとって大きな負担となります。リソースが少ないスタートアップにとっては、プロダクトに実装された技術をどこまで調査すべきかということは非常に悩ましい問題です。

(i)コア技術について入念に調査する

これについては、例えばプロダクトのコア技術(他の技術で代替不可能な技術)に重きを置いてFTO調査を実施する、ということが考えられます。コア技術が第三者の特許を侵害する場合には、そのコア技術を実装することができないため、プロダクトをローンチできないという事態にもなりかねません。一方で、コア技術以外の周辺技術については、他の技術で代替可能という場合もあり得ます。そのためコア技術について早めかつ入念に調査する、というやり方も一案です。

(ii)事業分野や製品・サービスを考慮して調査する

また、設計変更が実質的に困難であるHW系や製薬・バイオ分野等と、設計変更が比較的容易であるSaaS系の分野とでは、FTO調査の重要性は異なる、と言われることもあります。このため、スタートアップの事業分野や製品・サービスも考慮したFTO調査を実施するという考え方もあります。
しかし、スタートアップが単独でこれらの判断をすることは、非常にリスクが高いといえます。そのため、プロダクトに実装されるコア技術と周辺技術の切り分けや、何をどこまでFTO調査するのかといったことも含めて早めに弁理士に依頼することをお勧めします。

(2)FTO調査はどのタイミングで実施すべきか

FTO調査はどのタイミングで実施すべきなのでしょうか。FTO調査を実施すべきタイミングはいくつかありますが、プロダクト開発の各段階とローンチ直前がFTO調査を実施するタイミングとして挙げられます。
これらのタイミングのうち、プロダクトの開発初期でのFTO調査が最も重要になります。このタイミングでFTO調査を実施すれば、これから開発するプロダクトに第三者の特許が存在しているか否かを早期に知ることができます。開発初期にFTO調査を実施すれば、せっかくプロダクトを完成させたのに後から第三者の特許が発見されローンチできない、といった事態を防ぐことができます。
また、プロダクトの開発が中期から後期になれば、プロダクトの詳細な仕様も決まってきます。このタイミングでは、それらの詳細な仕様についてもFTO調査を実施すべきタイミングです。
そして、プロダクトがローンチされれば、そのプロダクトは多くの人の目に触れることになります。このため、プロダクトのローンチ直前のタイミングでは、それまでのFTO調査に比べより入念にFTO調査を実施すべきタイミングです。
このようなFTO調査により問題となる特許が発見された場合、プロダクトの設計変更が必要になることもあり得ます。そのため、そのような設計変更に必要な期間も考慮してFTO調査のタイミングを見極めることも重要です。
なお、資金調達、M&A、及びIPOのタイミングではスタートアップに対して知財デューデリジェンスが行われますが、このときに第三者の強力な特許が見つかった場合、資金調達、M&A、IPOが見送られることも十分にあり得ます。この時点で有力な特許が見つかった場合、それは「時すでに遅し」でしょう。 このため、早め早めのタイミングでFTO調査を実施することが望ましいといえます。

(3)弁理士へはどのようにFTO調査を依頼すれば良いのか

前述したように、FTO調査は弁理士へ依頼するのが一般的です。スタートアップが上記のような留意点を考慮してFTO調査の計画を立てるのは困難です。このため、プロダクトの開発がスタートしたらまずは弁理士に相談することをお勧めします。その際には、例えば、事業計画資料、投資家に提出した資料、及び開発ロードマップ等を弁理士に提示するとスムーズです。プロダクトの技術分野に精通している弁理士であれば、スタートアップの状況を確認したうえで、いつまでに何をFTO調査すべきか明確にしてくれることでしょう。

4.まとめ

今回はスタートアップのFTO調査について説明しました。スタートアップにとってプロダクトの完成間際にFTO調査をようやく実施するのでは遅すぎといえます。そのため、プロダクトの開発がスタートしたらまずは弁理士に相談することをお勧めします。早め早めのFTO調査がオススメです。まずは気軽に弁理士にご相談ください。