第15回
スタートアップ向けセミナー(東京)レポート

2023.3.23

2022年12月2日、スタートアップ向けセミナー(東京)(以下、「本セミナー」と示します。)が、日本弁理士会主催、特許庁共催にて行われました。
本セミナーは、会場とオンライン配信のハイブリットで開催され、会場およびオンラインでは40名ほどの方が参加をされました。

1. 本セミナーの概要

本セミナーの概要は下記の通りです。

  • (1)開会挨拶(日本弁理士会会長 杉村純子氏)
  • (2)特許庁スタートアップ向け取り組みの紹介(特許庁 芝沼隆太氏)
  • (3)弁理士会スタートアップ向け取り組みの紹介(日本弁理士会 大澤豊氏)
  • (4)パネルディスカッション:「スタートアップ企業における外部に向けた知財活動のアピールについて~社内啓蒙から社外へのアピールまで~」
 【登壇者】
  •   村井 慶史氏(株式会社オプティム 社長室知的財産ユニット)
  •   小日向 小百合氏(株式会社マネーフォワード 知財戦略部部長)
  •   蒋 李氏(Spiber株式会社 執行役員)
  •   芝沼 隆太氏(特許庁 企画調査課 スタートアップ支援班 班長)
  •   高柳 弘泰氏(日本弁理士会/株式会社ビードットメディカル 知的財産室 室長)
 【モデレーター】
  木本 大介氏(日本弁理士会/ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 IP&Legalファンクションチーム)

2.特許庁スタートアップ向け取り組みの紹介
(特許庁 芝沼隆太氏)

創業期のスタートアップ企業を対象とする知財の活用に関するアンケート結果についてご紹介がありました。アンケートによると、スタートアップ企業では、知財が①資金調達、②信用ブランドの向上、③協業への寄与、④技術の保護、⑤人材獲得、に貢献したとのことです。
また、特許庁のスタートアップ向けの取り組みとして、「IPAS(知財アクセラレーションプログラム)」と、「IP BASE(スタートアップのための知財コミュニティポータルサイト)」とについてご紹介を頂きました。
今後の特許庁のスタートアップ向けの取り組みとしては、VC(ベンチャーキャピタル)への知財専門家の派遣(今年度試行、来年度本実施)があるとのことでした。

芝沼隆太氏

3.弁理士会スタートアップ向け取り組みの紹介
(日本弁理士会 大澤豊氏)

本年度は、弁理士会のスタートアップ知財支援元年です。弁理士会における主なスタートアップ向けの取り組みとして、下記①~⑨の取り組みに関してご紹介を頂きました。

①セミナーの実施(本セミナーの他、仙台、福岡で実施予定)

②知財コンサルティング支援(弁理士知財キャラバン。費用は無料です)

③出願支援制度(出願費用の一部を支援)

④JPAA知財塾(活用のためのセミナー)

⑤ ブランド戦略セミナー

⑥日本ベンチャーキャピタル協会との連携によるセミナー(来年前半に開催予定)

⑦Japan Venture Awardsへの推薦

⑧JPAA知財サポートデスク

⑨地域会における支援(弁理士紹介制度、常設知的財産相談室、Webサイトにおける情報配信)

日本弁理士会 大澤豊氏

4. パネルディスカッション

「スタートアップ企業における外部に向けた知財活動のアピールについて~社内啓蒙から社外へのアピールまで~」をテーマに、下記の5つの質問事項に関してパネルディスカッションが行われました。

【質問事項】
  • Q1:知財の社内啓蒙のために、どんな知財情報を社内に発信しているのか?
  • Q2:知財情報のアピールは、社外のどんな人に刺さるのか?
    • – 消費者/投資家/採用マーケットのうちどのマーケットに向けて、どんなメッセージを発信しているか?
    • – どの部門と連携しているのか?
  • Q3:知財活動の成功事例は?
    • 個人的に会社に貢献したとおもった事例
    • 参考にした他社事例は?
  • Q4:知財活動の成果を経営者へ報告するときに工夫していることや苦労していることは?
    • 定量評価はどうやるの?
    • ROIの証明は?
  • Q5:知財活動に力を入れ始めたきっかけは?
パネルディスカッション パネルディスカッション

向かって左から順に

【モデレータ】
木本 大介氏(日本弁理士会/ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 IP&Legalファンクションチーム)
【登壇者】
  • 蒋 李氏(Spiber株式会社 執行役員)  
  • 村井 慶史氏(株式会社オプティム 社長室知的財産ユニット)
  • 小日向 小百合氏(株式会社マネーフォワード 知財戦略部部長)
  • 高柳 弘泰氏(日本弁理士会/株式会社ビードットメディカル 知的財産室 室長)
  • 芝沼 隆太氏(特許庁 企画調査課 スタートアップ支援班 班長)

各質問事項に関して、蒋氏、村井氏、小日向氏、高柳氏からは、それぞれが所属されている事業会社における活動などをお話しいただき、また、芝沼氏からは、特許庁により行われた創業期のスタートアップ企業を対象とする知財の活用に関するアンケート結果からみえることを中心にお話しをいただきました。

(1)Q1:知財の社内啓蒙のために、どんな知財情報を社内に発信しているのか?

何名かの登壇者からは「知財リスクの観点での啓蒙活動」についてお話があり、モデレータの木本氏からは、「出願したらどうなるかは説明しにくいが、出願しないとどうなるかは納得が得られやすいのではないか」という旨のご発言がありました。

(2)Q2:知財情報のアピールは、社外のどんな人に刺さるのか?– 消費者/投資家/採用マーケットのうちどのマーケットに向けて、どんなメッセージを発信しているか?– どの部門と連携しているのか?

創業期のスタートアップ企業を対象とする知財の活用に関するアンケート結果からみると、創業期は、知財の活用として資金調達の側面が大きいとのことであり、芝沼氏からは「信用獲得のツールとして知財が使えるのではないか」という旨のご発言がありました。
また、 蒋氏からは、「知財情報のアピールは、交渉やアライアンスのためのツールである」、「知財をエビデンスとして示さないと交渉で信用が得られにくい」、「技術がコアなので、資金調達のための証拠として知財権の取得が重要」など、特許庁の上記アンケート結果を裏付けるご発言がありました。
さらに他の登壇者からは、営業資料等への特許番号の表示など、取引相手やパートナーへの知財アピールについてお話がありました。
社内における連携に関しては、連携対象として、技術的なキーマンや、広報関係者が例として挙がりました。

(3)Q3:知財活動の成功事例は?– 個人的に会社に貢献したとおもった事例– 参考にした他社事例は?

登壇者からは、「コア技術を特許でおさえることができた」、「ネーミング等に関する相談が増えた」、「研究支援等に貢献できている」、「発明協会の発明表彰への応募、受賞」などが挙がりました。

(4)Q4:知財活動の成果を経営者へ報告するときに工夫していることや苦労していることは?– 定量評価はどうやるの?– ROIの証明は?

経営層への報告に関して、登壇者からは、「事業軸で報告している」、「特許を定量的に説明するのは難しいため、リスクを説明するのが重要と考える」、「事業に結びついているかの説明が必要となっている」、「他部門も重要と感じている旨を伝えることが重要ではないか」などが挙がりました。
また、定量的な報告の例としては、「出願数」、「費用」、「社内相談数」が挙がりました。
モデレータの木本氏からは、「知財は、ROIのR(リターン)の証明が難しい」、「出願はマストではなく、営業秘密の保護等を含め広義の知財の保護の観点で考えている」、「何件出願するかについて答えはない」という旨のご発言がありました。
別の観点としては、芝沼氏から「自社の特許を、①自社のみでなく、他社と比較して説明することができる指標を使いつつ、②マーケット規模との組み合わせで評価して説明する事例を、みたことがある」旨のご発言がありました。

(5)Q5:知財活動に力を入れ始めたきっかけは?

登壇者からは、「知名度が高いと、情報の漏洩が大きいので、出願を行っておかなければならないと感じた」、「競合他社に対する優位性を確保し、知財リスクを低減するためにも、出願を行う必要があると感じた」、「社長が知財活動に前向きで、新しいことを行う場合には出願を行い、他社の信用を獲得してきた」、「他社による権利侵害主張への対応がきっかけだと考える」、「類似品の市場からの排除のため」、「競合が大手ばかりなので、契約の上で有利になるように権利の獲得を図っている」などが挙がりました。

5. 最後に

経営資源をどれだけ知財に対してかけるのかについて、正解はないと思われます。
その一方で、例えば知財の専門家である弁理士に相談をし、協力関係を築いていくことによって、より適切な知財戦略をとることができるかもしれません。
また、今回のセミナーでもご紹介の通り、日本弁理士会では、スタートアップ企業の方々を支援する取り組みを進めております。
今回のセミナーが、スタートアップ企業の方々の一助となることを願っております。

【参考サイト】

弁理士ナビ
https://www.benrishi-navi.com/
スタートアップの知財コミュニティポータルサイト IP BASE 特許庁
https://ipbase.go.jp/